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集中して辺りを警戒すれば、近くには同じような奴が二人。 消えた恵さんを追わなかったのは、ただ単に気が付かなかったからか、それとも俺をINEVITABLEと断定していたからか。 どちらにせよ、先に恵さんを逃がし、一人でこの包囲を突破する方が安易。 「…ふぅ…」 一つ息を吐く。 手元にあるスナイパーライフル、残り弾はあと二発。 警告した都議会議員とは別に、長谷部義之に俺のメッセージがどれだけ伝わっているかは知らないが、伝わっていないのを想定して即行動に出なければ。 つなぎの下に着ているシャツを脱ぎ、右手にライフルを持って脇に固定。 左手には約100mもある重いワイヤーと、脱いだシャツを。 最後に使うと思わなかったゴーグルを装着。 (…3…2…1…) 心でカウントを始め、0になったところで都庁側へ猛ダッシュし、一度上へジャンプして飛び降りた。 奴らもまさか飛び降りるとは思っていなかったか、俺に向かってくる弾に動揺が伺える。 行動するときの基本、逃走経路の確保。 高層ビルならここが一番速く、成功率も高いし、敵も"まさか"と思う場所。 落下中、都庁側に構えていた別のスナイパーの肩と腕に一発ずつぶちこみ、ワイヤーの先に仕込んでいたフックを手にする。 (…54…44……ここだ!) ジャンプして1秒ほどの時間を稼いだが、やはり落下速度は速い。 集中しなければ見逃しそうなほどだ。 目標の非常階段の入り口を見付けると、そこを目掛けフックを投げる。 上手く引っ掛かったフックは、ワイヤーを持った俺の落下速度を下げ、更に体勢を整え近付いた壁を蹴れば、振り子の原理で俺を遠くへ飛ばしてくれる。
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