34/36
前へ
/255ページ
次へ
奴も警戒しているのか、かなりの頻度で周りを確認しては細い路地へと入っていく。 人通りの多い場所に出たと思えば、また路地へと入りを繰り返し、やっと公共乗物を使って大幅移動を開始。 見つからない、だが、見失わない位置から尾行し、時間にして150分。 辿り着いたのは、山と海に囲まれた小さな田舎町。 どうやらここがアジト…いや、自宅だろう。 俺以外の追っ手の気配はない。 とりあえず家をひとまわりすると、堂々とインターホンを鳴らせた。 「あ、長谷部さん。お届け物です。」 『届け物?』 「はい。新潟の長谷部さんからです。受け取りのサインをお願いできますか。」 『…はい。』 インターホンにカメラはなし。 周辺もカメラ一つないが、至る所に防犯センサーがある。 命の危機を感じているものが使う常套手段だ。 なかなか頭の切れはいい。 カメラなどあっても、敵は先にそいつを逸早く見付け、壊し、元を切る。 それより遠くからでも反応するセンサーを取り付けておけば、幾通りもあるはずの逃走経路に走る時間は稼げるというもの。 ただし、今の俺のように距離を開けず、センサーのスイッチを入れる前に玄関まで近付いてしまえば気付かないというデメリットもあるが。 カチャ! 鍵の開く音。 そこで動くのは危険。 扉には二つの鍵穴がある。更にチェーンロックの可能性。 ドアが20cm開いて初めて侵入出来ると確信する。 カチャ!……カタン! やはり、家のロックは厳重だ。 …殺し屋にとってはロックなどイージー過ぎる問題なのだが、今回は殺しではない。 そして20cm。
/255ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1135人が本棚に入れています
本棚に追加