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先にノブを掴んでいる手を見、身体の位置を把握すると、手を伸ばして勢いよく首を掴む。 大抵の場合それで怯むものだが、警戒心の塊が相手ならば、相手の死角に武器を隠し持っていることが多い。 案の定ナイフを持っていた長谷部義之の腕を蹴り、それを天井まで飛ばす。 「うわぁああ!あああっ!」 「…騒ぐな。INEVITABLEだ。」 「えっ!…ほ、本物か?」 「証拠か?ほら。お前が寄越した俺への依頼メールだろ。不可解なもん送りやがって。」 名前を出せばすぐ大人しくなる辺り、俺のことを本気で味方だと思っているんだろう。 俺にそんなものはないのだが、それに乗るのもまた一興。 「少しお前と話がしたいと思ってな。クライアントと会うことはあまり好きじゃないが、今回ばかりは必要だと思ってここまで来た。」 「…あれは俺への警告じゃなく…君が近くにいることを報せてたのか…」 「今ごろ気付いたか。警告はあのバカ議員にしただけだ。」 「…そ、そうか…と…とにかくこっちへ…」 落ち着く様子がないのは、相当な恐怖の表れ。俺に対してではなく、他の何か。 案内されたのは、家の中…から離れ、庭から山へ獣道を歩いて着いた洞窟。 奥へ進むと、環境の整った部屋のような場所。 ベッド、冷蔵庫、電気、カセットコンロにテーブル、そして数台のPC。 「そこに座ってくれ。コーヒーでも入れよう。」 「長居するつもりはないから必要ない。」 「そうか…それで話とは…?」 「一つしかないだろう。」 (クソ。恵さんの勝ちか…) 長谷部義之の態度を見て確信。 こいつ、俺がINEVITABLEだと知って、本気で安心してやがる。 つまり、『助けを求めた』が正解。
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