8

27/53

1137人が本棚に入れています
本棚に追加
/255ページ
目をこれでもかと思うほど見開き、美和子に視線を合わせる。 あれだけ殴られながら、綺麗な顔。 泣いているはずが、涙の跡さえない。 「…どういう…ことだ…美和子…」 「こういうこと。」 「…俺を…騙していたのか?」 「騙してたのはお互い様じゃない。」 コツ、コツ、コツ ゆっくり俺に近付き、座っている椅子の前で膝をつき、俺を覗くように見上げた。 薄気味悪い笑み、勝ち誇った表情。 どれもが俺の知らない大岸美和子。 「…お前…俺がINEVITABLEと知ってたのか?」 「知ったのは最近よ?」 「……………」 「出会いは偶然。私はただ、政府と関係のある人間に近付きたかっただけ。 だって関係者しか得られない情報ってたくさんあるでしょ?」 「…お前の部下に、そこまでの技術者がいなかったってワケか。」 「そういうことになるわね。この子も政府のデータにアクセス出来なかった。あれを突破できる人ってこの世にいるのかしら?」 「……………」 「でも、内部からなら情報は簡単に見ることができるからね。永悟のお陰でいろいろ見ることができたわ。」 「……………」 「でも、今年に入って気付いたの。永悟ってゲート通過記録もエレベーター使用記録も残ってるのに、目撃情報がないって。 怪しいと思ってすぐに調べたわ。でも、何も見つけられなかった。」 「……………」 「いろいろな手を使っても、あなたは尻尾を出さなかった。」 「例えば盗聴器、とか?」 「フフ。やっぱり気付いてたの。」 右手が動く。 それが俺の頬を撫でる。 かつて"愛した"女の顔で。
/255ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1137人が本棚に入れています
本棚に追加