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目をこれでもかと思うほど見開き、美和子に視線を合わせる。
あれだけ殴られながら、綺麗な顔。
泣いているはずが、涙の跡さえない。
「…どういう…ことだ…美和子…」
「こういうこと。」
「…俺を…騙していたのか?」
「騙してたのはお互い様じゃない。」
コツ、コツ、コツ
ゆっくり俺に近付き、座っている椅子の前で膝をつき、俺を覗くように見上げた。
薄気味悪い笑み、勝ち誇った表情。
どれもが俺の知らない大岸美和子。
「…お前…俺がINEVITABLEと知ってたのか?」
「知ったのは最近よ?」
「……………」
「出会いは偶然。私はただ、政府と関係のある人間に近付きたかっただけ。
だって関係者しか得られない情報ってたくさんあるでしょ?」
「…お前の部下に、そこまでの技術者がいなかったってワケか。」
「そういうことになるわね。この子も政府のデータにアクセス出来なかった。あれを突破できる人ってこの世にいるのかしら?」
「……………」
「でも、内部からなら情報は簡単に見ることができるからね。永悟のお陰でいろいろ見ることができたわ。」
「……………」
「でも、今年に入って気付いたの。永悟ってゲート通過記録もエレベーター使用記録も残ってるのに、目撃情報がないって。
怪しいと思ってすぐに調べたわ。でも、何も見つけられなかった。」
「……………」
「いろいろな手を使っても、あなたは尻尾を出さなかった。」
「例えば盗聴器、とか?」
「フフ。やっぱり気付いてたの。」
右手が動く。
それが俺の頬を撫でる。
かつて"愛した"女の顔で。
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