序章

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「…聞いてるのか?ミスター?」 『ま、待ってくれ!俺はこれをやり遂げなければ消されるだけだ!』 「やり遂げれば俺が殺る。どっちにしろ消されるじゃねぇか。」 『命の保証がある方を』 「警告はしたぞ。決めるのはお前だ。」 中途半端な会話をプツリと切ると、煙草を取り出し火を着けた。 肺に煙を充満させ、それを吐き出す。 煙草を口にくわえたままボストンバックに手を伸ばし、中から銃を取り出す。 ものの数秒で分解された銃をきれいに拭き、潤滑油を湿らせた布で弾詰まりの予防をする。 渋谷の一角、俺は一通りのメンテナンスを終えると、それをゴルフバックに詰め、静かに階段を上った。 一歩外に出れば、喧騒状態。 店や人間などから様々な音がし、その中の一つの音を手で停めた。 「…どちらまで?」 「東京タワー。」 「畏まりました。…でもお客さん、ゴルフバック持ったまま登るのかい?」 「…接待の帰りです。妙に東京タワーからの景色が見たくなって。」 「そうかい。今はスカイツリーの方が多くなったが、情緒があるんだよね。 しかし今時いるんだね。接待ゴルフを求める人って。昔は結構いたんだけどね。」 実にならない会話を面倒だと思いながらも到着まで続け、やっと解放される。 チケットを購入すると、一気に上昇して大展望台へ。 皆がガラスの向こう側に見とれている最中、俺は"private"と書かれたプレートが貼り付いたドアの前に立ち、ポケットからあるものを取る。 一本を固定、一本を上手く回す。 所謂ピッキングだ。 簡単に開いたドアを開け、そこから中へと侵入する。
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