2

20/33
前へ
/255ページ
次へ
ハンドワイパーで泡洗剤を拭い、見て見ぬふりを続けて数秒。 『分かった!だが、今回限りにしてくれ!もう二度と俺の前に現れないでくれ!』 『…それなら俺も同じ気持ちだ。』 (…バカな奴だ) 簡単に受け入れてしまった。 口元を覆うフェイスタオルをもう一度結び直し、ガラス全体をビニールで覆って端をガムテープでとめる。 そしてビニールとガラスの間に入り、腰袋から錐と金槌を手に取った。 『俺だってこんなことはやりたくない。だがこれは仕事だし、請け負った以上は完璧にこなさなきゃならないのはあんただって分かっているだろう? …卑劣だと言われようが恨みを買われようが、どうしようもないときもあるもんだ。 それが俺たちの生きる世界だ。』 『…もう、やめると決めた!』 『やめられればいい……が、な。』 …なんだ? 言葉の端々が妙に引っ掛かりを感じる。 一体取引相手はどんな大物なんだろうか。 恐らく知っていて損はない。 いずれ会うことになるはずだ。 『約束してくれ。江原さん。』 (……なっ……!?) ヘッドホンから流れる名前に、一瞬息を飲んだ。
/255ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1135人が本棚に入れています
本棚に追加