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どうしてこんなにもままならないのだろうか。 目の前を歩くカップルを見ながら、ぼんやりと思った。 時刻は夕暮れ、駅構内は帰宅する人々であふれかえっている。 皆が急ぎ足で、それでもぶつからないように行き交うホームをカップル はゆっくりとした足取りで談笑しながら、改札に向かって歩いている。 改札付近はたったいま到着した電車から降りた人と乗り込む人で混雑していて、そんな中ゆっくりと歩くカップルは完全に歩行の邪魔だった。 追い越すに追い越せず、ホーム内、改札付近にある立ち食いそば屋の芳しい香りを感じながら、少しの苛立ちを持ってカップルをもう一度見遣った。 どちらも髪を茶色く染めていて、けれど、女の方が少し明るく赤っぽい髪をしていた。 おそろいなのかどちらも緑のチェックのマフラーを巻いていおり、女がゆっくりと歩を進める度に膝丈の黒いフレアスカートがふんわりと揺れ、ブーツの軽い音がなった。 男が何か冗談を言って、女の方は1つに束ねた髪を揺らしながら声をあげて笑っている。 どちらもどこにでもいるような格好をした、どこにでもいるようなカップルだった。
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