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「つまらない話だった?」
僕は思わず聞いてしまう。
「ううん。興味深い話だったよ」
彼女の優しい嘘を聞きたくて僕は聞いてしまう。
「私も最近びっくりしたことがあってね」
彼女が窓の外を眺めながら言う。彼女の目の前の窓ガラスの外側に女の人がこちらを向いて前髪を直していた。窓ガラスを鏡替わりに使っているのだろう。内側から人が見ているとは気が付いていないみたいだ。
気が付かないほうが良いと思う。僕も同じ経験があるが、あれはかなり恥ずかしい。
「何だい?」
「幽霊って君は見た事がある?」
「僕はないなぁ」
従来怖がりな僕は幽霊が見えたら腰を抜かしてしまうだろうと思うから見えなくて良かったと思っている。
「幽霊ってね。死んだ人ともうすぐ死ぬ人しか見えないんだって」
僕はその言葉に背筋が凍る思いだった。まさか。
「君が幽霊を見たって話じゃないよね?」
僕がおろおろと挙動不審になりながら彼女に聞く。彼女は僕のそんな動揺がおかしかったのかくすくすと笑う。
「心配しなくてもいいよ」
彼女は言った。僕はほっと胸をなでおろす。怖い事を言うのはやめてほしい。
これから二人で幸せにやっていこうという所なのだから。
僕と彼女の交際は両家の両親から反対されていた。その理由は言うのも馬鹿らしいほどのものだったけれど、説得するのは無理なほど両親たちは頑なだった。
だから、僕たちは二人で遠くに行くことにしたんだ。そのためにここで待ち合わせをしていたのだから。
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