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『クレーマー:苦情を申し立てる人。特に,本来の苦情の領域を超えて,あら探しのような苦情を企業に寄せたり,執拗に抗議を繰り返したりする人をいう。常習的苦情屋。』引用 三省堂 大辞林
20xx年
私は、ひたすら謝っていた。
理不尽なことをべらべらと喋る、目の前の50歳くらいの男に向かって、頭を下げていた。
ことの始まりは3分ほど前に起こったことだった。
岩倉奈美はいつものようにアルバイト先のスーパーマーケットで、いつものように働いていた。
愛想がよく、他のアルバイト仲間やパートのおばさん、そしてお客さんからも好かれており、いつものようにレジを打っていた。
「いらっしゃいませ」
いつもの笑顔でお客さんに微笑む。
何も変わらない、そう思っていた。
「へらへら笑ってる暇があったら、さっさとこの商品通せよ」
そう言って、その男は奈美に向かってパンや飲み物を投げる。
感じが悪い客が来た、最悪だ。
なぜいきなり商品を投げられたのか、わけが分からなかったが、こういう客には変に突っかかると後が面倒くさいため、無言で商品を通す。
「678円頂戴いたします。ポイントカードはお持ちではないでしょうか?」
いつもと同じセリフ。
いつもと変わらない、そう、思っていた。
「持ってねえから出してねえんだよ、わかんねーのかこのゆとり!」
その最悪な男はそういうと、奈美に向かって今度は1000円札を投げる。
「てめえみたいなくそアマはひたすらにレジ打ってればいいんだよ。俺に無駄な時間をとらせんなブス。このスーパーは最悪だな。…てめえ謝んねえのかよ。俺はお前とは違って客だぞ?お客様は神様なんじゃねーのかよ。これだからゆとりは嫌なんだよ」
最悪な男は、喋る、喋る。
自分はただ笑顔でこの男を迎え、マニュアルにある、『ポイントカードを出していない客にはカードを持っているか尋ねましょう』ただそれを実行しただけであった。
なのに、なのに。
この男が騒ぎ出すようなことをしたのだろうか。
レジを打ち間違えたわけではない、この客に変な質問をしたわけでもない。
なのに、なぜ。
そうは思っても口には出せず、ひたすら、ただひたすらにこの最悪な男に頭を下げるだけであった。
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