第一章 最悪な男

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「もう、達也聞いて!ポイントカード持ってるか聞いただけで怒られたんだよ?これだからゆとりはーって。私たちだって、ゆとり世代に生まれたくてゆとり世代になったわけじゃないってのに」 奈美のバイトが終わり、一番最初にしたことは、恋人である園田達也に電話をしたことであった。 今日起こった、最悪な男の話を何度も何度もする彼女。 『おい落ち着けって奈美。そうかっかしてると、またしわが増えるぞ?』 悪質クレーマーに関する愚痴の電話は初めてではなかったために、茶化して怒りを落ち着かせようとする達也に、すっと気持ちが軽くなるのを感じた。 「達也、ありがとう。あーあ、でもほんと、悪質クレーマーは皆、死んでくれないかなあ」 死んでほしい、なんて物騒なことを言う彼女であったが、達也にはそれが止められない。 彼は彼で、自身のバイト先であるファミリーレストランで悪質なクレームをよく受けるからだ。 『ああ、俺もクレーマーには死んで欲しいと思ってるよ。…こんな噂、知ってるか?』 達也がにやにやとした声で語る。 クレーマーを処刑してくれる、クレーマー処刑人がいる。そういった話だった。 「しょ、処刑?つまり、殺しちゃうってこと?」 先ほどは、クレーマーは死んでほしいと言った彼女であったがいざ本当にそんな話があるのを聞くと怯えてしまう。 『いや、死ぬか死なないかは、そいつがどれだけ酷いクレーマーかどうかで決まるらしい。まず、悪質クレーマーはクレーマー再生所に連れていかれて、悪質なクレームを今後一切しないと判断された人は一般的な生活に戻れるだろ?でも、改善の余地なしや、再び悪質クレーマーに成り下がったやつは、処刑』 クレーマー再生所は知っていた。10年ほど前に作られた場所で、悪質なクレーマーが毎日毎日、模擬店を開き、悪質クレーマー役の教官に対してクレームを入れられ、普段自分がどれだけ性質の悪いことをしてきたか思い知る場所である。そして、入所の拒否はできない。それが、クレーマー再生所である。 だが、処刑されるといった話は知らなかった。 そもそも、クレーマー再生所は政府公認の養成所のようなところであるため、そんな人権を無視したことがあっていいのだろうか。
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