二十三歳の冬

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「そだね。キョウコちゃんの言うとおりだよ。ごめん、困らせて これから先も好きじゃないヤツに安売りしちゃだめだよ」 と、ハハッと苦笑いをした後。 「違うの。本当は私も、上川さんのこと……」  ここでキョウコちゃんは言葉を切って、こちらを向いた。  困ったような顔になり、黒縁メガネの奥の瞳が少し潤みを帯びていた。  でもその顔はまたすぐ下に向けられた。  オレは固唾を飲んで次の言葉を待った。 「花火見る前に抱き寄せられて、ドキドキして、チサトちゃんの彼氏だって分かってるのに、このままずっと時間が止まればいいのにって……」  あの時、キョウコちゃんはオレと同じことを思っていた? 「気になってる人とは結局巧くいかなくて、でもチサトちゃんから上川さんとの出来事を聞くたびに上川さんのことを知っていって、その相手が私だったら良かったのにって思うようになって、いつの間にか上川さんが私の心の中にいて……」  鼻をすする音が聞こえた。 「キョウコちゃん……」  キョウコちゃんが顔を上げてこちらを向いた。  目に涙を浮かべて微笑んでいる。 「でもチサトちゃんは上川さんのことが大好きで、私のこの気持ちはチサトちゃんに知られたらいけないんだよ そして上川さんもチサトちゃんのことが大好きでしょう?だって上川さんは私のこと『好きだった』って過去形で言ったから…… だからチサトちゃんのこと大切にして欲しい」  キョウコちゃんの目から一筋、涙が溢れ落ちた。
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