凪の光景5 漣(さざなみ)

漣(さざなみ)

パリと宮崎と東京を行き来しながら

二十七歳で結婚した。だが、賢一が一年の

うち半年近く海外出張する生活に妻が

慣れることはなかった。独りで待っている

のは辛過ぎると最初の結婚記念日に

離婚届を突きつけられた。

三十五歳の時、一回り年下の女に告白

されたのがきっかけでつきあい始め、程

なく結婚した。しかし、やはり妻は長期に

渡って海外へ出張する賢一をひとりで待て

なかった。せめて子どもが欲しいと

言われて賢一は戸惑った。戸惑ったことに

気がついて更に戸惑った。結婚して

子どもが産まれ、その子が育っていく

家族の風景を想像したことが一度も

なかったのだ。