漣(さざなみ)

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或いは黙って去った自分を恨んでいるかも しれない。恐らく結婚して子どももいる だろう。それでも今一度逢いたいと思った。 ふらりと立ち寄った、ひと夏を過ごした 湘南の海に二十五年の時を経て理美はいた。 ジャケットを無造作に腰に巻いた姿も 真っ直ぐな黒髪をかき上げる仕草も昔の ままだった。海を眺める横顔がどこか 寂し気なことを除いて。 理美の肌が、声が、辿ってきた日々を 語る。無為に過ごし孤独に闘い続けた 時間と遠く離れていた空間を 取り戻したくて、賢一は理美を抱いた。 相模湾を臨むこの部屋で。
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