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「どうして、こんな…。」
「結局おまえには逢いに行けなくて、その
ままフランスへ送り込まれた。」
賢一がそこまで考えていたとは理美は
思いもしなかった。賢一が海外赴任した
ことを知らず、訪れない彼をただ待ち
続けていた三年の春休み、あの時感じた
胸が張り裂けそうな痛みを理美は忘れる
ことが出来ない。
「去年の秋、スーツケースの底に転がって
るのを見つけて思い出した。」
あの時、賢一が剣道部の寮を退寮する
前に一瞬でも顔を合わせていれば、
理美にも賢一にもまったく違った人生が
待っていた。
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