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玄関は朱美の部屋のそれと同じ広さだったが、靴はすべて靴箱にしまわれていてとても清潔感がある。
磨き上げたばかりのような靴箱の上に、全身が白く、くちばしの赤い文鳥がチョコンと立っている。
文鳥はこちらをじっと見ていた。
「このこ、サチコって言うんだ。サチコ、この人がお隣の堺さん」
正宗はまるで人間にするように朱美を文鳥に紹介すると、朱美のほうを向いた。
「堺さんごめん、店でなんかトラブルがあったみたいで、一時間だけサチコのそばにいてくれるかな。ごめん!」
正宗は朱美の返事を待たずに玄関を出て走り去ってしまった。
突然のことに呆然としていると、刺すような視線を感じる……文鳥がこちらを見ている。
「こんにちは、サ、サチコちゃん。よろしくね」
朱美はとりあえず靴を脱いでかかとを揃えると、奥に見えるソファに向かって歩き出した。
「で、どこまで聞いてんの?」
中年女性の声がした。
朱美は三百六十度ぐるっと音源を探してから、文鳥に視線を止める。
「アンタ、正宗の彼女?」
文鳥の口が動くと、中年女性の声がする。
そして、どことなく、加齢臭がする。
「あ、あ、あ、あ……」
朱美はあまりの驚きに腰が抜けてその場に座り込んでしまった。
「私が何者かも聞いてないわけ? まったく、正宗の奴。何が『僕に任せて』よ」
朱美の脳はフル回転していた。文鳥が、口をきいているのはなぜだ。
「あ、あの、あなたは」
「今更隠しても仕方ないから言うけど、私は菊田幸子。正宗は私の息子なの。私たち夫婦は科学者なんだけど、研究中の事故で魂が飛んじゃってね。体は死んだことになって火葬されちゃった。夫は桜文鳥に魂が入り込んだはずなのに行方不明でね。私一人で探しに行くから大丈夫って言ってるのに、正宗が話を聞かないのよ。カラスに食べられたらどうするんだってうるさいの」
目の前の小さな文鳥のくちばしがせわしなく動くと、中年女性の声が聞こえる。
朱美は相槌を打たせない勢いでまくしたてるサチコを見上げて固まっている。
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