文鳥と隣人

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「あの、あなたの話、信じます。信じますけど、私は菊田さん……正宗さんがニカラグアに豆を買いに行く間だけあなたの話し相手になるということしかお力になれないと思うんです」 「あのね、面倒だからハッキリ言うわ。アンタ正宗をオトしてくれる? 嫌いじゃないんでしょ? 目を見ればわかるわ、ちなみに正宗はアンタにぞっこんよ。幼稚園生の時の初恋のケイちゃんにそっくりなのよアンタ」 「オトすって、どういう意味ですか」 「わかってるでしょ。下半身と戸籍をガッチリ抑えるってことよ! そんで、正宗じゃ話にならないから、私との連絡係りになりなさい」 「か、か、か、かは、かはん」 「下半身よ! いい年なんだし、処女じゃないんでしょ?」 「ずいぶんな言い方をされるんですね、お母さまは」 「アンタもめんどくさいタイプね。とりあえず正宗が戻ってくるまでに私を外に出してくれる? 一時間後にベランダに戻るから、その時窓を開けて。正宗にちゃんと伝えなさいよ、聞いてんの堺朱美!」 白文鳥はベランダの窓のところまで飛ぶと、右の羽を伸ばし、左の羽を伸ばし、飛ぶ準備を始めた。 「早く開けてよ、正宗が戻ってくるでしょ! 早く!」 「は……はいっ!」 朱美は気分屋の上司のせいでどやされるとすぐに体が反応するようになっていた。 ササッと窓を開けると白文鳥のサチコは近くの街灯に向かって飛び去って行った。 窓を閉めて、その場に座り込む。深呼吸をすると、全身から血の気が引いた。 隣人のペットの文鳥を、外に放してしまった。 もし、あの文鳥が帰ってこなかったら、正宗にどう説明すればいいのか。 ガチャ。
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