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「あの、堺さん?」
「菊田さん、私をからかってるんですか? あなたほどの人が私を好きになるわけないですよ。文鳥はしゃべりだすし菊田さんは変なこと言い出すし、人の心をもて遊ぶとろくな目にあいませんよ」
正宗は寂しそうな顔をした。
それから、寂しそうな顔のまま、正宗の顔が朱美の顔に近づいて……正宗の唇と朱美の唇の間には、一ミリしか隙間がなくなったその瞬間。
カンカンカンカンカンカンカンカンッ!
突然の音に二人は飛びのいた。
音のするほうを見ると白文鳥が狂ったように窓をつついている。
「こんな時に帰ってこなくても」
正宗はそうつぶやくとベランダの窓を開けた。
白文鳥は鼻歌を歌いながら飛び込んできた。
「やったね正宗! やったね! 正宗!」
けたたましく泣き叫ぶ白文鳥の声は、途中からチュンチュンという鳴き声に聞こえてくる。
「朱美ちゃん! アンタ、これからは私の娘よ! 今日はもう、正宗と話すのごめんだから寝室に行くわね。じゃ、あとは若い二人でごゆっくり!」
白文鳥は正宗と朱美の周りをぐるっとまわってから洗面所に消えていった。
「あの、母は今洗面所を寝室にしてるんです。トイレの始末が便利だということで」
「はあ……」
正宗は洗面所のドアを閉めて朱美に向き直る。
「あの、もう一度、やり直させてください……僕は、堺さんを一目見た時から好きになってしまったんです」
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