文鳥と隣人

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池袋の駅周辺は不夜城だが、十分も歩けば静かな住宅街となる。 朱美の仕事は不動産会社の賃貸営業だった。 その日は全く契約が取れずに、上司にどやされたことでイライラしながら家路を急いでいた。 街灯が道行く人間の影を照らし出す。 朱美の背後から、速足で歩いてくる誰かの足音がした。 間もなくその影は朱美を追い越していく。 「お母さん、もうし少しの辛抱だよ。もう家につくから」 スマホを耳に充てながらそう話しているのは、お隣のイケメン、菊田正宗だった。 正宗の姿を見るだけで心が弾み、さっきまでのイライラは嘘のように消えていた。 その日の夜。 シャワーを浴びていた朱美は、隣の部屋から響くドタバタと走り回るような音に気付き手を止めた。 早めにシャワーを切り上げ、壁に耳を当てて、隣の様子をうかがう。 「お母さん! 頼むから早く檻に入ってよ! 外は危険だって何度言ったらわかってくれるの?」 「チュンチュン! チュチュチュチュチュチュン!」 朱美は壁に耳を当てたまま凍り付いた。 「お母……さん……檻?」 確かに隣家から聞こえた正宗の声は、お母さんと言った。 その呼びかけに返事はなく、文鳥の鳴き声だけが響いていた。
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