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 傾斜が緩やかになった時、振り返ると雪崩は既に止まっていた。 「あの馬鹿!」名取は来た道を戻ろうとしていた。 「名取さん、どうしたんだ?」野田の声が後方から聞こえてきた。 「三宅が雪崩に巻き込まれました!」 「マジかよ!」野田もターンをして引き返した。 「あいつ自分から降りました」名取は声を詰まらせていた。 「三宅君らしいよ」 「雪崩は終わりかけだったから、浅い場所に埋まってると思います」 「うん、大丈夫だよ。生きてるはずだ。名取さんは三宅君のスマホに電話して着信音を鳴らしてみて。僕は位置情報を調べるから」 「はい!」  二人はスノーモービルのエンジンを止めて降りると、聞き耳を立てながらゆっくりと斜面を登った。スマホの着信音は鞄に入れても聞こえなくなることが多く、ましてや雪に埋まっている状態で聞こえるはずもなかった。  位置情報のアプリも数メートル単位で位置を特定できるほどの精度はない。二人は手当り次第に穴を掘った。 「早くしないと……」名取の頬を涙が伝った。 「どうしたらいいんだ? 何か良い方法はないかな?」野田は焦っていた。穴を掘る指の感覚が無くなり始めていた。 「野田さん……」 「何?」野田は名取のいる方角を見た。 「あれ」名取は斜面の上を指差す。  そこにはクマがいた。喉を鳴らし、顎からは止めどなく血が流れ出ている。雪の上に赤い筋を描きながらゆっくりと近づいてくるのだった。
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