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俺が油断している隙をついて、彼女は王子と従者である術者により連れ去られてしまったのだ。俺もあちらの世界ではそれなりに、能力を持っていて、カノンと共にここに逃れてくるだけの力は持っていたのだが、こちらの世界では、あちらの能力は無効だ。俺はこちらでは、ただの人間。相手は何人もの従者を連れており、力の差は歴然だった。
「カノン!今助ける!」
俺は力の限り、バールをドアノブに振り下ろすと、ドアノブは壊れて落ちた。
俺は思いっきりドアを開けた。
「キャア!いやあ!助けてっ!」
「カノン、早く!こっちに来い!」
カノンは真っ青な顔で、首を横に振った。
「馬鹿なことはやめろ!」
その声は、憎むべき隣国の王子、レオンだった。
「どっちが馬鹿だ!カノンを返せ!」
俺は怒鳴った。
「カノンが怖がってるだろ!」
レオンが叫ぶと、カノンはレオンの後ろに隠れた。
くっ!卑怯な。術者によって、カノンは心を操られてしまったのか。
俺たちの能力はこちらでは無効のはずなのに、どうやって彼女を幻術で惑わせたのか。
「カノン!目を覚ませ!俺だ!リクだ!」
俺は必死にカノンに問いかける。しかし、カノンは震えて首を横に振るばかりだった。畜生!せっかく奴らのアジトを突き止めて助けにきたというのに!
俺はバールを振り上げ、強行手段に出た。
レオンを殺す!そして、カノンを取り戻す。こちらに取り戻してしまえば、彼女を惑わせている術は解けるはずだ。
「やあーーーーーー!」
俺は奇声とともに、突進して行った。振り上げたバールは、空を切り、アジトの床にめり込んでしまった。
チッ、外したか。レオンはすんでのところで、俺のバールをかわしたのだ。
バールが床にめり込んで抜けない。その隙に、レオンは卑怯にもこの世界のスマホという連絡手段で援軍を呼んだのだ。
「大人しくしなさい!」
その援軍は叫びながら、突入してきた。
バールを抜いて再びレオンに襲い掛かろうとした俺は、その援軍の従者によって、羽交い絞めにされた。
「確保!」
従者は叫び、俺は床にねじ伏せられた。
ああ、今回も、カノン奪回に失敗した。
俺は、この従者に捕まり、この世界の白と黒の不思議な金属でできた乗り物に乗せられて連れて行かれるのか。
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