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「じゃあ私、もう行くから」
早く、1秒でも早く、この場から立ち去りたかった。
べつに別れなんて気にしていないって、大人な女の振る舞いで、足早にかっこよく葵央の横を通り過ぎたかった。
だって、ムカつくじゃない。
葵央は別れを告げる間も余裕の表情で、もう私のことなんか、欠片も心の中にいないのは丸出しで。
「……っ!」
なのにこともあろうか私は、葵央の真横で躓いてしまうからどうしようもない。
「大丈夫、色葉?」
「だ、大丈夫だから離して!」
さらに私は葵央の腕に支えられてしまっていた。
最悪、声が裏返ってしまった。
あーもう。最後の最後までかっこ悪い。
きっと、こんな私だから葵央は別れようって思ったんだろうけど。
葵央は私のお腹に回していた手を離した直後に口を開いた。
「噂、聞いたよ」
「え?」
「テニス部の大村先輩だっけ?仲いいんだってね」
「……あぁ、うん、まぁ……」
大村先輩は私と同じテニス部の男子の先輩。
「色葉、大村先輩と付き合ったら?」
「……」
……どうして葵央にそんなこと言われなきゃならないの?
3年前と真逆のこと言わないでよ。
今、唇が少し震えているのが自分でもわかる。
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