あと30回

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「じゃあ私、もう行くから」 早く、1秒でも早く、この場から立ち去りたかった。 べつに別れなんて気にしていないって、大人な女の振る舞いで、足早にかっこよく葵央の横を通り過ぎたかった。 だって、ムカつくじゃない。 葵央は別れを告げる間も余裕の表情で、もう私のことなんか、欠片も心の中にいないのは丸出しで。 「……っ!」 なのにこともあろうか私は、葵央の真横で躓いてしまうからどうしようもない。 「大丈夫、色葉?」 「だ、大丈夫だから離して!」 さらに私は葵央の腕に支えられてしまっていた。 最悪、声が裏返ってしまった。 あーもう。最後の最後までかっこ悪い。 きっと、こんな私だから葵央は別れようって思ったんだろうけど。 葵央は私のお腹に回していた手を離した直後に口を開いた。 「噂、聞いたよ」 「え?」 「テニス部の大村先輩だっけ?仲いいんだってね」 「……あぁ、うん、まぁ……」 大村先輩は私と同じテニス部の男子の先輩。 「色葉、大村先輩と付き合ったら?」 「……」 ……どうして葵央にそんなこと言われなきゃならないの? 3年前と真逆のこと言わないでよ。 今、唇が少し震えているのが自分でもわかる。
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