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先輩は私と葵央が別れようとしていることは知らない。
「桜本さんはそんないい加減な奴がいいの?」
「……」
何も答えない私の顔を先輩が覗き込んでくる。
目と目が合って動揺した。
「桜本さんみたないい子には、彼は合わないと思うんだ」
「……」
「だからさ、僕のこと考えてくれなかな?」
「え」
「気付いてない?僕ずっと桜本さんのことが好きだよ。僕なら、君にそんな悲しい顔させないし、全力で大切にする」
先輩の頬が赤い。
先輩が私のことを好き?
耳に届いた信じられない言葉に驚いて視線が泳いでしまう。
「あ、あの……私は……」
「今はまだ答えは聞きたくないかな。だって真面目な桜本さんは“彼氏がいる”って断るでしょ」
私の言葉を遮るように、先輩が私の手を握った。
「桜本さんは今まで僕のこと“テニス部の先輩”としか見てなかったでしょ?これからは“自分のことを想っている男”として見てみて欲しいんだ」
「……」
「そしていつか、僕のこと好きになってよ」
「……えっ」
「そんな希望を込めて今日告白したんだ」
そんな言葉とやわらかい笑顔を残して、先輩はコートに戻っていった。
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