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私はスマホを耳から放し、真っ暗になった画面をじっと見つめていた。
今の人が葵央と一緒に歩いてたと噂になった人?
今の彼女?
私よりも好きになった人……?
疼くように痛くなった胸をどうすることも出来ずに、ただ立ち尽くしていた。
「色葉、何してるの?」
何分くらいたったか、背後から聞こえてきた声に、ビクリと大きく体を震わせた。
葵央の声。
どうしよう……戻ってきたんだ。
人の電話に勝手に出てしまった後ろめたさで体がこわばる。
葵央のスマホを握りしめたままだった。
「わ、忘れてるから……届けようかと思って……これ」
葵央の方に恐る恐る振り向いたと同時に、手に持っていたスマホを差し出した。
本当は電話に出てしまったことを謝らなきゃいけないのに。
≪葵央、4時に青葉駅に来てね。待ってるわ≫
この言葉を伝えなきゃならないのに。
言えない……言えない。
言いたくない。
葵央の顔も見られない。
「そ、ありがとう」
「ごめん……私、教室に戻るね」
葵央がスマホを受け取った途端、私は逃げる様にその場を後にした。
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