月を見しかな

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『えー。んなさみしい事言うなよぉ』  まったくだ。  拗ねたように言った佐藤が、『あっ』と小さく声をあげる。 『なあ、相沢。窓から空、見えるか?』  突然、そう訊いてくる。 「そりゃ、見えるけど……」  花火は見えないぞ、と言うと、『違うって』と笑われた。  取りあえず、窓をガラリと開けてみる。 『相沢。今日は満月だぜ』  佐藤の声と共に、視界に月が飛び込んできた。エアコンをかけ、カーテンを閉めていたから、今まで気付かなかったのだ。  眩しい――と。 正直な感想はそれだった。 『キレイだなー』  のんきな呟きが、耳元で囁かれる。それに「そうだな」と、俺は素直に答えていた。 『今、花火見てる奴等は、気付いてねぇんじゃねーかなぁ』  こんなにも儚くて、軟らかな光が、花火と同じ夜空に浮かんでいるという事を。  得した気分だなぁ、と笑う気配が電話越しに伝わってくる。 『なあ相沢。夏休み、一緒にどっか行こうぜ?』 「お前、バイトばっかだって言ってたじゃないか」 『そうは言ったけど、休みの間毎日って訳じゃねぇよ』 「なるほど」
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