22と43

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「凄い、繁盛してますね」 「嬉しい悲鳴といいますか……お出しするのが遅くなって申し訳ありません」  会釈をして、マスターがオードブルを差し出す。ダイニングバーの店内は満席で、アップテンポなジャズが、会話の隙間に居場所を探すように流れていた。 「何かお飲みになりますか?」と続けたマスターに、カウンターの端に座る若い男は「じゃあマティーニをもう一杯」と空になったグラスを軽く振ってみせる。 「お強いんですね」 「いいえ、全然。こういう、バーに入ってみたのも実は初めてで」  想像していたより、賑やかでびっくりしました。周りを気にした様子の若い男に、マスターはかぶりを振った。 「うちは、お酒は拘って作っているつもりですが、雰囲気はこう、わいわいしてますから」 「ここは何年くらい前から?」 「十八年くらいになりますか」  最初はそれこそ、お洒落で静かなバーを目指していたんですけれど。照れ臭そうにして、マスターがカクテルの準備に取り掛かる。  次々と寄せられる注文を流れる動作でこなす背中は、何とも頼もしさを感じさせた。 「お待たせしました。お水も、宜しければどうぞ」 「ありがとうございます」  若い男にカクテルと水のグラスを差し出したマスターは、忙しさを感じさせない、けれど機敏な動作で戻っていく。  それからしばらくは騒がしい時間が流れていたが、街がまどろみ始めると、店内の客はまばらになっていった。 「なんだか職人さんって感じですね」  マスターの手が空いた頃を見計らって、隅っこでちびりちびりと飲んでいた若い男が声をかける。 「所作が身についているというか、背中で語っているというか」 「はは、ありがとうございます」 「マティーニなんですけど」 「はい」カウンター内を整えながら、マスターが答える。 「父が、好きだったんです」ぽつりと呟いた若い男は、空のグラスをくるりと傾けてみせた。暖色の照明がきらりと反射して、輪っかを作る。 「バーテンダーの真似事をする程度で、こんなにちゃんとした感じではなかったんですけど」 「なるほど、そうでしたか」 「僕が三歳の時、事故に遭って……まあ、今はもう、いないんですけど」 「そうでしたか」と小さく頷いたマスターに、この話には続きがあって、と若い男がグラスを見つめたまま言う。 「実は、父は生きているらしいんです」
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