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「キャアアアアアア!!」
誰ともつかない女性の高い悲鳴で我に返る。
遮断機が下りたままの踏切。レールと車輪の擦れる金属音。急ブレーキする電車の車体がスピードを落としながら止まる。車窓から見える車内の乗客は皆、突然の出来事に不機嫌な顔をしていた。
一向に止まる気配のない耳障りな警報音。交互に点滅する縦列した二つの丸い赤ランプ。辺りは騒然としていた。
「誰か救急車を呼ぶんだ!」
「この場合は警察だろう!」
「いや、電車の運営会社に連絡を!」
「それどころか全部にだ!」
いち早く反応した男たちの怒声が飛び交う。
顔を覆いその場でしゃがみこむ女子高生。大声で泣きじゃくる子供。我が子に見えないようにと目を覆い顔をそむける主婦。携帯電話を片手に撮影をしようとする空気の読めない男子学生。嫌だわと口元に手を当ててボソボソと話し合う初老の女性。様々な反応が見られた。
そんな中、詰襟の学生服の男子学生――田中太郎(たなか たろう)は顔面蒼白にしながら、進行方向である上りの線路脇の茂みを見つめていた。
一体何があるのか太朗には分かっていた。何せ、一部始終を初めから見ていたのだ。
どこから見ていたのか?
……話は、一週間ほど前に遡る。
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