見つめる先

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 父親は、とっくに準備を終えて仕事場へ向かうために出ている。上や下に兄弟は居らず、1人っ子の3人家族。これが田中家である。  卵焼きを食べようとした時、ふと太郎は不思議なモノを目の当たりにした。  正面で食事をしている母親の頭上に変なモノが追随していた。変というのは、不自然なまでにワックスで固められたリーゼントな髪型になっているとか、年甲斐もない猫耳のカチューシャが乗っているというわけではない。何と言ったらいいのか、簡単に言えば2つのゲージが見える。もう少し詳しく説明すれば、上に赤いゲージと下に緑色のゲージが並列に並んでいた。  おかしな話だが見えた。  あれは、一体なんなのだろう? と疑問に思っていると、視線に気が付いた母親が訝しげにこちらを見返していた。 「どうかしたの、太郎? 今日のご飯が不味いなんて言うんじゃないわよね?」  いつもと変わらないと思うわと呟き母親は食事を再開する。 「いや、ちょっとね」  居てもたってもいられず太郎はその場で立ち上がると、唐突に母親の頭上にある2本のゲージを横なぎで追い払おうとする。  すると、触れることも消すもできず風が起こるだけだった。 「なに、ハエでもいるの?」 「とくに虫がいるわけじゃないんだけれど……」 「じゃあ、なによ?」  不満そうな母親の質問を無視して、もう一度、今度は触れてみようと腕をゆっくり伸ばす。
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