1人が本棚に入れています
本棚に追加
――しかし、やっぱり結果は先ほど同じだった。
どういう理論なのか、2本のゲージを指がすり抜けている。感触や温度などは全くなくゲージと指の境目を、まるで水面に触れているかのように小さな波紋が広がっていた。
疲れているのかと思い目を擦って見直すが、これといった変わりはない。
無言のまま太郎が首を傾げていると、しびれを切らした母親が声を荒げた。
「一体、どうしたっていうの?」
「ごめん。……じゃあ、聞くけれども頭の上にあるのは、何?」
「頭?」
座り直りながら太朗は意を決して質問すると、言われた本人は自分の頭――しっかりセットされた髪を右手で触れる。
そっちじゃないと心の中で思うが、髪に触れる前にゲージをすり抜けた母親の手を見ると、やっぱり触れられないのだと実感する。
だったら見えていたりするのだろうかと疑問が浮かぶが、台所に立つよりも先に化粧台の前で髪を整えているのだから、見えていたのなら気づくはずだ。しかし、その気配は全くない。
何かあったらあったで今頃、この母親なら大騒ぎをしているだろうと思う。
そんなことを考えていると、確認を終える母親は食事の手を再開する。
「何言ってるのよ、何もないわよ」
「あぁ、うん、ないならいいんだ。ないなら」
「全く、寝ぼけているんじゃないの、この子は? さっさと食べて寝ぼけた頭を起こすために顔お洗って学校に行きなさいよ」
そこで会話は終わってしまった。
とりあえず、短く「分かった」とだけ太郎は返事をして残りの朝食を平らげていく。このまま考えていても結論はでないし、何より食事を終えないと家を出る限界の時間になってしまう。
最初のコメントを投稿しよう!