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幸運は続くものだ。
とりあえずと手書きで張り出したバイトの求人を通りがかりの高校生が見て早速面接をという流れになった。
「高校..一年生..です。」
人見知りなのか、ずっと下を向きぼそぼそと喋る。
ヒョロリとした体型に表情も見えない長い前髪。
あまり接客が得意そうには見えない。
「趣味とか、特技とかありますか?」
その問いにはあまり間を置かずに答えた。
「絵は得意です。ポップとかも書けると、思います。」
なるほど。
確かに美的センスは必要だ。
(特技不得意かはっきりしてると仕事も頼みやすいしいいかも。)
話を聞く限り手先は器用そうだ。
「ゲームの知識はどうですか?パソコンとか」
機械類は結の、もっとも苦手な部類。
「ゲームは..あまり..。
パソコンは、....絵を描く程度に..」
一通りは使えそうだ。少なくとも結よりは。
「週3日でやってみて、それからシフトは調整ってことでお願いします。名前はー」
「藤堂です。藤堂 崇。」
「崇君。僕は、多々良 結です。一応正社員。祖父が店長ですが、あまりいないので何かあれば僕に連絡ください。」
「その、つまり..雇っていただけるんでしょうか?」
「はい、明日からお願いします。」
彼の目がキラリと光ったように見えた。
「ありがとうございます!精一杯がんばります!」
今日聞いた一番大きな声。
やる気はあるようだ。
こっちまで嬉しくなる。
翌日から崇はやってきて、真面目に働いた、
アンティークに合わせたポップを次々に仕上げ、その腕前はプロ並み。
カフェ仕立ての落ち着いたポップは結の好みだ。
黙々と掃除や本棚の整理をする姿は、想像よりもずっと戦力になる。
「崇君。お疲れ様です。今日はもう上がっていいよ。戸締まりは僕の仕事だから。」
「お疲れ様でした。失礼します。」
結も戸締まりをして裏口から出る
春先の肌寒さが、体に染み込む。
ギヨットしたのは、足元に黒い大きな固まりに気づいたからだ。
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