第1話  イエローカンガルーポー

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 1枚目。親父からの手紙。 最初は実家の近況とか、結婚はまだだろうとか、当たり障りのない文章が続く。 中盤辺りから、お前もそろそろ身を固めろとかそんな話になり、本題に。 俺には言ってなかったが、許嫁(いいなずけ)がいると。 親父の従兄の娘に当たるらしい。黙っていてすまなかったとも。 そして、相手さんは乗り気なので、まあがんばれ、と他人事のように書いて締められていた。  婚姻届が同封されていたこともあり、予想はしてたが……。 それにしても、いきなりすぎる。 親父の従兄の娘ということは、俺にとっては、また従姉妹に当たることになるのか。 そんな会ったこともないような()を紹介されても困る。 「まあがんばれ」とは、いったいどうなんだろうか。息子の結婚相手だぞ。 この1枚目を読むだけで、頭が痛くなる。 実家に電話しようか。いやいや、全部読んでからでも遅くない。 全貌を把握してから抗議した方が、展望は明るいだろう。  気を取り直して。2枚目の手紙を取り出す。 親父の従兄、俺の許嫁の父親、相田(あいだ)(とおる)さんが書いたもののようだ。 あいだ?とおる?一瞬、聞き覚えがあるような気がした。 とはいえ、どちらも珍しい名前ではない。仕事関係で耳にしたのだろうと、思い直す。 いきなり冒頭で「久しぶり、元気してるか」から入って来た。 そして「娘とあんなに仲良くしていたから安心して任せることができる」とも。 娘の名前は「相田(あいだ)(のぞみ)」。 年は16歳。高校生だが安心してほしい、こちらの学校に編入してるから、と。 近々訪ねてくるだろうから、よろしくとも書いてあった。 その後は、いかにいい娘か、俺にべた惚れなのかが綴られていた。  引き続き、3枚目、婚姻届を見る。 左側一番上の欄の「夫になるひと」のところは空欄。 隣の「妻になる人」のところには「相田 希」と記名されていた。 住所や本籍の記入箇所は、俺の書くところは空欄。 相手側の欄には、どちらも記入済である。希さん、東京のひとなんだね。 父母の記名欄にはどちらにも記入されていた。 その他は下まで未記入。 書類の右側にある、「証人」の欄には、「佐々木 知之(ともゆき)」、「相田 徹」の両父親の名前が。 親切に印鑑まで押してある。
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