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「キャァッ!」
数日前、僕の前方で女性が悲鳴をあげた。
人が行き交うショッピングモールの中心部での出来事だった。
僕は直ぐ様、その場を避けるようにそこから去った。
去ってしまった。
自分が同じ立場なら、見てみぬ振りが一番嬉しいから。
しかし、それが今……
後悔に繋がるなんて思いもしなかった……。
僕はその女性を知っていた。
顔を会わせればどちらからともなく挨拶を交わし、世間話をする間柄だったからだ。
そして何より、僕は彼女に思いを寄せていたし、彼女も僕を気にしていると聞いていた。
だけど正直、目撃した瞬間はどうしたらいいのかわからなかった。
声を掛けるべきか、見てみぬ振りで良かったのか。
あの状況での正解を僕は知らなかった。
そのせいで、僕はあいつに負けた。
憎らしい自信家のあいつに。
彼女は、あいつを嫌いだと言った。
だから僕達は仲良くなった。
あいつに関する愚痴が、僕達を近付けてくれた。
なのに、
なのに、彼女はあいつを選んだ。
偶然居合わせ、声を掛けたあいつに。
僕は僕なりの優しさであいつに負けたのだ。
だから、この件で改めて僕は学んだ。
人は皆、自分の事さえ信用出来ないと。
しかしこれは、段差も何も無いところで派手めに転んだ彼女のおかげと言うべきなのだろうか……?
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