姫の悲鳴

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私は戸惑い頭の中で思いが混乱していた。 やはり、姫君は姫君だ。しかし、目の前にいる者は化け物だろう。身体と頭が別れているのに、目を開いて口で話すのだから、と。 「姫君であろう者よ、ひとまずそっとして置いてほしい。その場を動かないでくれ」 やっと出た言葉がそれである。 あと三歩の所で彼女のゆっくりとした歩みは完全に止まった。 私はそこから静かに後ろに五歩下がった。 思いの外、追ってこない。 私は自分の身体を見た。 彼女を斬る物も痛めつける物も持ってない。 そうなれば血の先にある場所。 つまり私の部屋か。 私は足音を立てずに廊下を歩く。 足にはまた赤い血が塗られていく。 ここにある物といえば、私がいつも腰にぶら下げている剣か。 私は寝枕の近くにある剣を見た。 鞘は抜かれてないようだ。 思い返せば私は姫の悲鳴を聞いた時、なぜこれを持っていかなかったのだろう。 念のためにここに置いておいた意味がまるでないじゃないか。 まさかこの鞘の中の剣が血が付いてるからでは。 私は鞘を抜いてみる。 安堵した。 血など付いてない。 このまま姫の部屋に戻るべきか。 いや、とんでもない。 あんなのは化け物だ。 私は引戸を閉めて自分の布団に入ることにした。 目を瞑るが、眠れない。 それどころかまた例の悲鳴が聞こえてきた。 さらに床が軋む音。 誰かが歩いているのだろうか。 頭の無い姫の身体か。 「じ……」 声が聞こえてきた。 私は尽かさず剣を手に取った。 「じい……」 この声は姫の声? もしかするとあの化け物から逃げそびれた姫か。 満月に照らされた影が扉に姿を現した。 頭がある人の影。 いや、案ずるな。 あれは化け物が頭を身体の上に置いただけかもしれない。 「じいや……」 いや、あれは姫だ。 私が立とうとする時に何かに掴まれた。 布団から伸び上がる白い手。そして小さな指。 さらに布団がめくれて小さな身体が現れる。 しかし顔がない。 私は引き戸を見た。 そこには何もいなかった。 「おい、離せ!!」 私はその剣をその腕に振るう。 しかしその腕は切れない。 何度も切り込むことで分かった。 これは透き通ってるのだ、と。 「頭はどこだ?」 急にその両腕に倒されて枕元に寝かされた。 そして真上の天井に驚いた。 彼女の頭は天井にあったのだ。 しかもこちらを見ている。 「じいや。許さないから」 私の思考回路は停止された。
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