姫の悲鳴

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私は家の中を隠れつつ走り回った。 「じいや……じいや……」 そう呼んでくる姫の化け物に追われながら。 私は足がふらついてきたので近くの部屋で扉を見つめながら身を休めることにした。 すると先程まで呼んでいた姫の声が静かになった。 ふっと後ろを見る。 「じいや?騒がしいけど、平気?」 そこには頭の繋がった姫の姿があった。 「姫君、よくぞご無事で……」 私は姫に向かってお辞儀をして頭を上げた。そして私の身体は武者震いを起こした。 「じいや、どうしたので?」 私を見上げる頭と正座して座り込む身体。 これを見て「どうしたので?」ではないだろう。 「じいや、身体が思うように動かないわ。手伝ってちょうだい」 私はいつも通りの姫だったら、「はい、喜んで」と手を差し伸べるだろう。 しかしこの時の私は何も言わず、身体を固まっていた。 「あら、やだ。落としちゃったわ」 私はまた急いで部屋を出た。 また廊下を駆ける。 「ねぇ、じいや。どこ行くの?」 「そうよ、どこへ?」 「じいや?」 廊下の手摺りの下で綺麗に並ぶ姫の頭三個が私の近い方から順に呼びかけてくる。 この家に化け物が増えている。 おかしい。 「何なんだ?」 私は思わず声に出してしまった。 「あなたがどうしたのよ」 真ん中の姫の頭が答える。 「姫君、あなたの身体は何処へ?」 その三個の頭は悲しそうに同時に綺麗に揃えて答える。 「あなたの後ろに」 私が後ろを向くと、無数の姫の身体が両手を拡げて立っている。距離的に一歩後ろにいた。 「ひいいい……」 「そんなに驚かなくてもいいじゃない。??に???って言ったんだから」 私にはよく「?」の部分が分からなかった。聞き取れるはずなのに聞こえない。そんなことよりも足を早めて距離を取った。 私は風呂場に来た。 姫は小さいながらも女である。 だから裸になって姫に見せればという考えが脳裏に浮かんだ。 しかし主人に怒られて斬首とかになることを恐れるとそれは出来ない。 そもそも頭と身体が離れてる姫に見せても効果はないはず。 私は心の中で決意した。 じいやなりの行動あるのみ、と。 私は頭の中で姫様の恨まれ事を探していたが、結局今になっても見つからなかった。 甘やかしすぎるなという主人の教訓に従っての行動なら恨まれているかもしれないが。
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