おとぎの国

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足音はどんどん近づいてくる。そして遂に兵士たちが姿を現した。剣を構え、振り下ろす。もう逃げられないと目を瞑った、その時だった。 「やめなよ」 その声に目を開けると、兵士の剣は振り下ろされる直前のままぴたりと止まっていた。 そして目を見開き固まる兵士と私の間には、黒いフードを被った小柄な少年が立っている。 「君たち、この森は管轄外じゃなかった?」 少年が静かにそう言うと、兵士たちははっと我に返り深々と頭を下げた。 「も、申し訳ありません!クロノス様!」 「 たまたまこの森に入ったら、魔女と思しき女がいたので…!」 「申し訳ありません!」 クロノスと呼ばれた少年は小さくため息をつくと、「魔女、ねぇ…」と呟きながらちらりと私を見た。黒いフードの中で黄金色の目が光る。そして兵士たちに向き直るとめんどくさそうに口を開いた。 「ま、今回のことは報告しないであげるよ。でもこの森ではあまり勝手な行動しない方がいいよ」 その言葉に、兵士たちはペコペコと何度もお礼を言いながら去っていった。少年はそれを見届けると「さて」とこちらに体を向けた。 「君も君だよ?1人で森に入るなんて、何考えてるの?」 「ご、ごめんなさい」 見ず知らずの、おそらく同じ年か年下であろう少年に命を助けられ、説教をされている。予想だにしなかったシュチュエーションだ。 「で、君、名前は?」 「えっと…」 答えようとして言葉に詰まった。名前? 「えっと、私は…あれ?」 「まさか…わかんないの?」 そのまさかだった。頭を振り絞って考えるが、全く思い出せない。言いようのない不安が全身を駆け巡る。なんとなく、前にもこんなことがあったような気がした。少年は口を閉ざす私を横目に「まじか…」と漏らすと、イライラしたようにフードを脱ぎ頭をかいた。髪はフードと同じ漆黒で、ところどころぴょんぴょん跳ねている。私は立ち上がり、藁にもすがる思いで少年の腕を掴んだ。 「ねぇ、私どうすればいいの?お願い、助けて」 「うーん、でもまあ、僕に関係ないし。自分で何とかしなよ」 必死の願いも虚しく、少年は掴んだ右腕を振り払い、歩き出そうとする。その時、きらりと何かが光り、少年は少し眩しそうに目を細めた。 「…君、それ見せて」 「え?」 少年の指は胸元に光る鍵を指していた。首にかけていたことをすっかり忘れていた私はそれを外し、少年に手渡した。
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