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少年は目を細めてじっくりと鍵を見ながら問いかける。
「これ、どこで?」
「あの、それ私のじゃないの。この服の、ポケットに入ってた」
泥棒だと言われるかもしれない。そう思いながら恐る恐る真実を伝えたが、少年はただ小さく「へぇ」と言っただけだった。拍子抜けする私に少年は鍵を手渡すと、またフードを被った。
「その鍵は、間違いなく君のだ」
「え、でも…」
「君のだ。僕が言うんだから間違いないよ」
力強くそう言われると何も言い返えせず、少年に急かされながらまた鍵を首にかける。少年はそれを見て小さく頷くと、今度こそ森の中をすたすたと歩き出した。せっかく助けてもらえると思ったのに…私は肩を落とす。が、少年は突然歩みを止め、くるりと振り向いた。
「何してんの、行くよ」
「え?」
「困ってるんでしょ?」
「うん。でもさっき…」
「事情が変わったんだよ。行くよ」
「あ、待って!どこに…」
「僕ん家だよ」
そう言うとまた背を向けて歩き出した。私は置いていかれないように慌てて着いて行く。見ず知らずの男の子の家に行くなんて、不用心だろうか。少し怖い気もするけれど、悪い子ではないのだろう。フードの隙間から見える白い肌を見ながら、胸元の鍵を握る。
「ねぇ、あの…」
「クロノス」
「クロノス…様…?」
ついさっき兵士たちがそう呼んでいたのを思い出し、迷いながらも敬称をつけて呼びかける。しかしそれを聞くと少年は小さく吹き出し、「クロでいいよ」と笑った。いきなりそんなフランクに呼んでいいのかと思ったが、本人が言うのならばそれでいいのだろう。お言葉に甘えて「クロ」と呼びかけると、「なに?」という風に視線だけをこちらに寄越した。
「あのね、ここって、そのやっぱり…」
「やっぱり?」
「本当におとぎの国なの…?」
確かめるようにそう聞くと、クロは立ち止まり目をパチパチと瞬かせた。
「え、それ以外の何だと思ってたの?」
その答えを聞き「やっぱりか」と私はまた肩を落とした。クロは独り言のように「本当に何もわからないんだ…」と言うとまた歩き出す。
確かロルにも同じようなことを言われたな…と考えながら、私はロルのことを頭のおかしい人だと決めつけたことを思い出した。
「悪いことしちゃったな…」
「何が?」
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