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「さて。落ち着いたところで、もう一度きちんと話しましょうか」
ロルが仕切り直すようにパンッと手を鳴らす。
その音にシャキッと背筋を伸ばした。
「は、はい!」
そうだ。きちんと知って、考えなければ。私の今の状況や、この国のこと。私は2人に向き直り、今度こそ何を言われても受け入れようと覚悟する。ロルは優しく目を細めた。
「では、何からお話しましょうか」
「まずはやっぱ名前じゃない?さっきそれでショック受けちゃったんだし」
ティーポットから紅茶を注ぎながらクロが言う。名前のこと…たしかに知りたいような気がする。私は賛成の意味を込めてクロの言葉に頷いた。
「そうですね。それでは名前のことからお話ししましょう」
ロルはコホンと咳払いをして話し始めた。
「名前はその人そのもの、というのは先程お話しましたね?」
私は頷く。まだきちんと理解できたわけではないが、私が帰れないのはそれが原因なのだ。
「同時に、名前というのは、人が生まれて1番最初に授かる魔法のようなものなんです」
「魔法…?」
先ほどロルが私に使ったようなものだろうか。
ロルは頷き、続ける。
「ええ、呪文と言ってもいいかもしれません。親は子に名前を授けることで、その子に願いや思いを吹き込みます。別の言い方をすれば、名前という魔法をかけることで親は子を支配する」
「名前は支配の…魔法?」
「それは赤の他人でも例外ではありません。名前は「自分そのもの」を表します。その名前を他人に教えるということは自分の一部を相手に渡すこと。つまり…」
「名前で、他者にも支配される…」
「まあ簡単に言えば、そうなりますかね。けれど名前には支配と同時に、愛や思いなどの守護も込められています。人は名前によって支配されますが、護られてもいるのです」
名前がそんなに大切だとは知らなかった。
ただ個人を区別するためだけではなかったのか。
しかし、支配や守護、魔法などと言われてもあまりピンとこない。今まで名前に支配されたり護られたりしていると感じたことはないし、考えたこともない。
半信半疑の私に「魔法は」とロルが言葉を続ける。
「魔法は、それが信じられている時代や世界なら、
より強く、より確かな力となって現れます。
あなたの世界では、どうでしたか?」
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