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「あっ…!」
誰かが短く悲鳴を上げる。
それは私だったのかもしれないし、周りの人だったのかもしれない。
もしくはその両方だったのだろう。
小さい頃、私は空を飛ぶのが夢だった。
よく母の風呂敷を首元で結び、マントに見立てて椅子からぴょんと飛び降りたものだ。また風の強い日には真っ先に傘を手に外へ飛び出した。吹き荒ぶ風の中、大人用の傘を開いて何度飛び跳ねたことだろう。時には根拠のない自信を胸に部屋の窓から飛び出そうとして両親に鬼の形相で止められたこともあった。それでも私は風が強い日が来るのを心待ちにし、高い場所を探すことに余念はなく、来たる華々しい日に備えてお気に入りである花柄の風呂敷を肌身離さず持っていた。
しかしそんなチャレンジ精神旺盛なお子様も数々の実験を繰り返す内に、人間は生身で重力に逆らえないことに気づいた。
たとえ高いところからぴょんと飛んで風を感じたとしても、それは飛んでいるのではない。落ちているのだ。
かつてのチャレンジ精神旺盛なお子様は、ごく普通の少女になった。
もう空を飛べるだなんて思わない。
少女は
ただ空を見上げながら
落下していた。
誰かの悲鳴が聞こえる。
私は静かに目を瞑った。
諦めよう。人間は重力に逆らえないのだから。
そして次の瞬間私は地面に強く叩きつけられ、短い生涯を終えるのだ。
周りの悲鳴はどんどん遠ざかり、小さくなっていく。
しかし、いくら待っても私に地面の衝撃は訪れなかった。
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