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「シンデレラだ」
「そう、シンデレラ。もちろん君も知ってるよね?」
私は頷いた。もちろん知っている。いじめられていたシンデレラは魔法のおばあさんの力で綺麗なドレスに身を包み、かぼちゃの馬車に乗って舞踏会へ行く。そして王子様と結ばれるのだ。
小さい頃、大好きだった物語の1つだ。
「じゃあこのシンデレラって、どんな人?」
クロはくりくりとした目を向けながら真剣な顔で言った。その質問の意図を図りかねながらも考えてみる。
どんな人?シンデレラのイメージということだろうか。私は助けを求めるようにちらりとロルを見たが、目を瞑って静かに紅茶を楽しんでいる最中だった。
「えっと、綺麗で優しくて働き者で…それからどんなときも夢を信じて希望を持ってる、強い人…かな?」
語尾を濁しながら答える。するとクロは「それだよ」と言いながらパチンと指を鳴らした。
「君が持つシンデレラのイメージはある意味で正しい。きっと、彼女を知る人はみんなそう思ってる。そして、そうあって欲しいと思ってる。たくさんの人がそのイメージを持って彼女の名前を呼ぶんだ」
クロは表紙を指でトントンと叩きながら言う。
話が見えない。頭がパンクしそうだった。
「つ、つまり…?」
「あーもうわかんないかな」
クロは不機嫌そうに顔を歪め、ガシガシと頭をかいた。その横で、じっと聞いていたロルが優しい声で「つまり」と言った。
「つまり、それはこの世界で強い魔法となって現れる。名前という魔法によってシンデレラは、彼女の名を知る何億人もの人に、支配されてしまうのです。『シンデレラとはかくあるべきだ』という願いや思いの下にね。そして彼女はそう振る舞わざるを得ない」
私は首を傾げた。やっぱりよくわからなかった。名前に支配されるとはどんな感じなのだろうか。名前に関係なく、好きに生きることはそんなに難しいことだろうか。
私はその疑問をそのまま口にした。クロが不機嫌な顔のまま答える。
「難しいっていうか、無理なんだよ。シンデレラという名前を持つおかげで彼女はこの世界に存在し続けられるんだ。でもその名前を持つ限り、彼女は『みんなが求めるシンデレラ』であり続けなければならない」
「じゃあもし、そのみんなが求めるシンデレラっていうのを無視して、自分の好きなように生きたらどうなるの?」
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