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とは違い、完全な消滅。その存在自体が消えてしまうのです。そうそうあることではないのですが、前例はあるようです。まあ存在していた事実が消えるわけなので、誰も覚えてはいませんがね」
私も含めて、とロルは肩をすくめた。
守護がないと存在自体が消える。
そして守護は名前に込められている。と、ここで1つの疑問が生じた。
「じゃあ、なんで私は消えないんですか?」
「うーん…おそらく、あなたは名前がない状態でこの世界に来た、いわばイレギュラー的な存在。ですので、この国の守護も支配も関係がないのかもしれないですね」
よくわかりませんが、とロルはこてんと首を傾げた。今ひとつ、腑に落ちなかった。探るようにじっとロルを見つめたが、ただニコニコしているだけでそれ以上言葉は出てきそうになかった。
「やっぱさ、それが関係あるんじゃない?」
額をさすりながらその様子を見ていたクロは、スッと私の胸元を指差す。額がほんのり赤くなっている。
「この鍵のこと?」
私は胸元の鍵を手に取った。ロルは少し目を見開き、ちらりとクロを見た。クロは小さく頷く。
「え、この鍵って何か意味があるんですか?」
2人の様子を見て思わず口をついて疑問が飛び出す。
顎に手を当て少し考えたあと、ロルはにこっと笑った。
「その鍵はあなたの存在を示すものですよ。大切になさってください」
全く状況が飲み込めない私とは対照的に、2人は全てがわかったかのような表情だ。何かを隠されているような気がするが、それはきっとまだ知るべきではないことなのだろうと勝手に納得すると同時に、この数時間で随分物分かりがよくなったものだと自分に感心する。
それにしても、これからどうすればいいのだろうか。
ここがおとぎの国だということも、名前がわからないと帰れないということもわかった。
私はもう一度目の前に座る2人を見た。視線に気づいたクロがにやっと笑う。
「これからどうしよーとか、思ってるんでしょ」
「え?な、なんでわかったの?」
なんとなくー、と間延びするように言いながらクロは笑った。もしかしたらクロは本当に心が読めるのかもしれない。
「ここに住みなよ」
それはまるでクッキーを勧めるような、軽い言い方だった。
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