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あまりに突然のことに返事が出来ない。
「いいじゃん。名前を思い出すまで、さ。ねえロル、いいよね?」
「ええ、大歓迎ですよ」
「じゃ、決まりね」
「え、でも」
「名前さえ思い出せれば、帰り道もわかりますよ」
「そうそう。それにどうせ行く当てもないんだし」
まだ返事もしていない私を置いて話はどんどん進んでいく。
たしかにこのまま外に放り出さたら、私は路頭に迷うだろう。しかしこの家に住む?そんな簡単に決めてしまっていいのだろうか。
思い悩む私をよそに、2人の会話は、私の部屋や布団の話を終え、次はお風呂の順番をどうするかに進んでいた。
「あ、あの、私…」
「ねぇ、君、一番風呂じゃないと入れない人?」
「へ?ううん、大丈夫だけど…」
「そ。じゃあロル、やっぱりジャンケンだよ」
「レディファーストがいいかと思ったんですがねぇ」
住まない、とはとてもじゃないが言い出せない雰囲気だった。
しかしよくよく考えてみると、本当にこの国で私は、この人たち以外に頼れる人はいないのだ。
私は覚悟を決め、すうっと息を吸った。
そしてお腹の底から声を出す。
「ロル!!クロ!!」
ピタリと会話をやめた2人の視線が、私に集中する。
「ふ、不束者ですが!どうぞこれからよろしくお願いします!!」
部屋中に響き渡ったその声に、2人は同時にぷっと吹き出すと楽しそうに笑った。
「嫁入りじゃないんだから!」
「こちらこそ、お願いします」
つられて思わず私も笑った。
ああ、上手くやっていけそうだ。
2人の笑顔を見ながら、私はこれからのここでの生活にほんの少し、胸を躍らせた。
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