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そよそよと頬をくすぐるような風と瞼越しに感じる暖かな光に、私は目を覚ました。どうやらベッドの上のようだ。
あの寝起き特有の倦怠感もなく、いつになく心地よい目覚めではあるが、それだけに思考はクリアで、すぐに目の前に広がる天井に違和感を覚えた。
木で出来たその天井には、花のような模様が全体に彫られていた。こんなお洒落な天井は知らない。自分の部屋ではないことは明確だった。
だとすれば病院だろうか。
しかし身体を起こして辺りを見渡すと、どうやら病院というわけでもなさそうだった。
天井と同じように壁も床も木で出来ており、病院というよりは「お家」といった感じだろうか。
私は部屋の中をキョロキョロと見回しながら、まるでお伽話にでも出て来そうだなと思った。
もう少し見てみようと立ち上がろうとした時、コンコンと扉を叩く音がした。
こちらを気遣うような優しいノックはこの可愛らしいドアの向こうから聞こえていた。
返事をしようと思ったところで、私はふと思い止まった。
何と返事をすればいいのだろう。
本来ノックに対する返答としては「入ってます」か「どうぞ」が定番である。しかしここはトイレではない。よって前者は間違いだろう。
かといって「どうぞ」と返してしまうのもおかしい気がする。だってここは私の部屋ではないのだから。
「えっと…あの…はい」
結局100点満点中30点くらいの曖昧な返事をすると、ドアがカチャリという音を立てて開いた。
「具合はどうですか?」
ひょこっと顔を出したのは綺麗という言葉がぴたりと当てはまる、男性だった。
一瞬女性かと思ってしまうほど中性的な顔立ちだが、ノックと同じように優しいその声は心地よい低音をしている。
あまりの綺麗さに私が言葉を失っていると、男の人は切れ長の目を心配そうに細めた。
「あの、まだ具合、よろしくないですか?」
「え?あ、具合は、もう!はい!大丈夫です!」
しどろもどろになりながら答えると、男性はふわりと微笑む。
「そうですか。それはよかったです」
男性は部屋の中に入り、用意していたらしい銀色のティーカップに何かを注ぎ始めた。
この匂いは紅茶だろうか。
その心地よい音とほのかに香る紅茶の匂いを感じながら、私はその男性を少し観察することにした。
年は何歳だろうか。20代…いや、もしくはもっと上かもしれない。若くも見えるし、うんと大人っぽくも見える。
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