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すらりとした長身に、着ているのはだぼっとしたローブのような不思議な服だ。薄い唇は弧を描いているが、眼鏡の奥に光る瞳は少し冷たそうにも思える。そしてその瞳と同じ色をした銀色の長い髪は1つに束ねられていた。
見れば見るほど不思議な人だ。まず日本人ではないだろう。
そもそもあまりに人間離れした容姿である。まるで彫刻みたいだ。本当に私と同じ生き物なのだろうか。
「あの…」
「え?」
「私の顔に何かついてますか?」
そう言われて我に返った。かあっと顔が熱くなる。一体どれくらい見つめてしまっていたのだろう。男性は少し眉を下げ、相変わらず微笑みを浮かべている。
「砂糖はおいくつお入れしましょう」
「あ、2つでお願いします」
ぽちゃりぽちゃりと砂糖を入れてかき混ぜた後、男性は私に紅茶を差し出した。
「どうぞ」
お礼を言って受け取ったその紅茶を一口飲む。カモミールの香りが鼻に抜ける。私が一息ついたのを確認すると、男性はベッドの横にある椅子に座った。
「あの、ここはどこなんですか?」
私はずっと喉から出かかっていた疑問をようやく口にした。そして溜まりに溜まった疑問は一旦口に出してしまうと、もう止まらない。
「あまり覚えてないんですけど、私、多分落ちたんです。高いところから。それでわからないけど、気づいたらここにいて、それで、あの、ここはどこですか?病院?」
男性は表情を変えずに、じっと私の言葉を聞いている。
「私一体どれくらい眠ってたんでしょうか。時間の感覚とかも全くなくて…それにとても失礼だとは思うんですけど、あなたは誰なんですか?すごく親切にして頂いたのは嬉しいんですけど、お医者さん…ではないんですよね。わからないことだらけで、私、もうどうしていいか…」
そこまで言ったところで、男性は私の手を出し取り、もう一度カップを握り直させた。
「落ち着きましょう。さあ、もう一口紅茶を飲んで」
柔らかく静かな声に、私は自分が興奮していたことに気づいた。言われるままに紅茶を飲む。カモミールの香りに、すっと心拍数が下がった気がした。
「さて、落ち着きましたかね」
「はい…」
「ひとつだけ、確認させて頂いてもよろしいですか?」
男性は少し考えたあと、私の目をじっと見つめて言った。その顔からは微笑みが消えていた。
「本当に、何も、わからないのですか?」
「え?それってどういう…」
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