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「あなたは、何かのはずみに違う世界に来てしまったのだと思います」
ロルさんは先程よりもはっきりとした口調で言う。しかしそれでもわからなかった。違う世界?
「それって外国とかそういう…」
「外国ですか…よその国、というくくりで言うならそうとも言えます。しかしそうではなくて、何と説明したらいいのか…」
ロルさんは眼鏡をカチャリと直しながら考え込む。こんなに綺麗な人を悩ませてしまっていることが申し訳なくなってくる。私の理解力が足りないのだろうか。
「あのロルさん…」
「ロル、で結構ですよ」
「ロ、ロル…あの、すみません、私の理解力がないばかりに…」
「いえ、説明する者がなんと言っていいのかわからないものを理解しろだなんて、無理な話です」
しばしの沈黙が流れる。
耐えきれず私は紅茶を飲んだ。
「単刀直入に言います」
ロルが沈黙を破る。真っ直ぐと私を見据えるその目からは覚悟が見て取れた。
もちろん今までの話が腑に落ちたわけではない。しかしロルの様子から、遂に核心に迫るときがやってきたのだということがわかった。私はもう一度姿勢を正す。
ロルはとても丁寧に
「ここは」
はっきりと言った。
「ここは、お伽話の登場人物が暮らすおとぎの国なんです」
カシャンという音が小さな部屋に響き渡る。
それが自分が落としたカップの音だと気づくまで、さほど時間はかからなかった。
ーー記憶の中で、幼い私が走り出す。
チャレンジ精神旺盛なお子様は花柄の風呂敷を首に巻き、高らかに叫ぶ。
『私ね、お空を飛んでね、お伽話の国に行くの!そこでお姫様とか、動物とか、みんなで遊ぶの!
ね?素敵でしょ?』
お子様はぴょんと跳ねると、ひらりとマントを翻し、まるでお伽話の主人公のように大空へ飛び出した。
空を飛ぶのが、夢だった。
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