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青木めぐみさんがウチで暮らすようになって、早3か月。
最初は、家にいてもどこか緊張気味で、何をしたらいいのかあぐねているように見えた。
けど、倉田さんの口添えで週2回『女性センター』で働き出してからは、少しずつ口数が増えて、仕事の様子なんかをポツポツと話してくれるようになった。
そして私とも「歩生さん」「めぐみさん」と呼び合うようになって、だんだん打ち解け始めた。
今じゃ、あんなに綺麗な笑顔をくれるようになったし、表情も穏やかになったと思う。
そもそも一緒に暮らすようになったきっかけは、3か月前にめぐみさんの夫、青木信夫が死亡したことから始まる。
死因は、酔っぱらって橋から川に転落した『事故死』とされているけど、真相の程はわからない。
その頃のめぐみさんはDVから女性を守る【女性センター】というところで保護されていて、一人息子のたくみ君は【児童養護施設】に入居していた。
青木信夫が死亡したことで、図らずもめぐみさんの脅威は無くなった。
DV被害にあうこともなく、追われる危険に怯える必要もない。
これからは、晴れてたくみ君と暮らせる。どこかにアパートを探して……と思った矢先、たくみ君の養子縁組が成立してしまった。
一緒に住むようになってから、めぐみさんの口からたくみ君の名前が出たことはないし、まるで割り切っているかのように、子どもの話題を口にしない。
でも時々遠くを見つめる視線の先に、小さな子供とその母親の姿を見つけることがある。
そんな時、私は掛ける言葉も、歩み寄る空気さえも、うまく掴むことができなくて。
ただ一緒にその親子連れを眺めている。
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