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『 スーパーオーツキ 』の生鮮野菜コーナーに、渡辺はいた。
全身を、パッツンパッツンの薄いゴム皮で締め付けられ、
主婦らに愛想をふるまっている。
すっかり出てきた腹のたるみがこの時だけは強引に引き締められる。
皮膚の色は緑の設定だ。翻るマントはさらに深い緑で、
オーツキ スーパースターズと、白で染め抜かれている。
そして、リアルなアボガドの顔……
その頭は着ぐるみとしては中途半端な大きさで、
丁度……そう、ウルトラマンと、歩くバランスが心配される
二頭身近いゆるキャラとの中間程の大きさだった。
よくいう所の、キモカワに分類されるのだろうか…… いや、その姿は
どう見繕っても、キモいだけのキャラクター、
正真正銘キモキャラに他ならなかった。
『 アボガド君 』は、スーパーオーツキが、社会人野球に参戦した際に生まれた。
某プロ球団の、7回裏にヒネリを加えたバック転を披露する、
あのキモカワに肖ってオーナー自らデザインした自信作なのだと聞く。
よって、渡辺は筆談用のノートまで持たされているのだ。
必要とあらば緑のゴム手をしたまま字を書き、
客とコミュニケーションをする。
アボガドの顔の内面を、涙で濡らしながら…… 。
なんでこうなった? 高校ではそれなりに鳴らした本格派右腕だったのに。
セパ12球団からの誘いは無かったが、
オーツキスーパースターズのレギュラーで
活躍を期待されていたんじゃなかったのか?
それが今ではこのざま……マスコットキャラの中。
最近では野球からも離され、
こうして本業のスーパーの営業までやらされている。
右手が疼く……渡辺の右手の甲には、消えない交通事故の跡があった。
スクーターで転倒した際、条件反射的に受け身をしていた……商売道具でだ。
今思い出しても叫びだしそうになる、悔やみきれないその行為。
イカれた右手は、直球の最速を20キロも落としてしまい、
リハビリ後も感覚は戻らず、一軍のベンチに一度も座る事なく
遂に年齢も30代に突入してしまった。
アボガドのシワに隠された覗き穴から、
自分と同年代と思しき子連れの夫婦が視界を横切り絶望する。
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