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「 オーツキ寮の部屋は退出できたかな? ん? 」
ええ、渡辺はオーナールームのソファーに座り、そう答える。
「 そうかそうか!よしよし。ええぞええぞ。」
「 でも、何のために…… あの寮は僕以外誰も…… やはり、
取り壊しですか? 」
「 まあ……その前にちょっとね……… 」
「 所で今日、今から僕と行きたい場所があるって、
一体、何処に出張するのです? 」
「 まあまあ急かさずに、まずコレを見てくれないか?
渡辺君にしか出来ない仕事なんだ。」
そう言いながら、大槻は緑の薄い手袋をした手で
リモコンを操作し、ディスプレイのスイッチを入れる。
そのゴム手がアボガド君の物だと、渡辺は気がつかない。いや、
そもそも手袋をしている事にも。それだけ今の彼は浮き足立っていた。
他の社員には絶対秘密の一大事業を、
オーナーから託され、呼び出されたのだから。
「 良いか?くれぐれもこの事は、他言無用だぞ 」
「 ええ、ええ、で、どのような企画でしょう…… 」
「 驚くなよ…… この、映像に! ふふっ…… 」
今から行く出張もその一環なのだ。しかもオーナーと二人だと言う。
自然と心が浮つく……自分にしか出来ない…… 自分にしか………
あのボロボロの寮からの退出は、昇進を意味しているのでは?
きっとそうだ。幹部に、あんな部屋は似合わないから…………
が、大槻がその企画を収めたメモリーカードを再生させた
瞬間、眩暈がする程の衝撃に襲われ、
ふわふわした気持ちが一瞬で吹き飛ばされた。
なぜか? そこには、忘れもしない、
8年前の、地下の、個室での、アノ犯罪映像が、
それは見事なまでに鮮明に映し出されていたからだ。
しかも音まで拾われているではないか。
「 あの部屋に、防犯カメラが吊るしてあったのわからなかった?
君、よっぽど興奮していたのか、全く気付かなかったみたいね。
まあ、アボガド君の視界は狭いからね…… 。 」
---- - - 知っ……て……た …… なら…… 何で…… ……
時間をたっぷりと掛け、たったそれだけのセリフを、
渡辺はようやく絞り出す事が出来た。
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