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「 はっ! ……解雇ですか。だから寮を出て行けと……… 」
「 いや、話を聞いてくれ渡辺君……… 」
「 いや、いや、オーナー…… 僕の様な人間は、いつも失敗ばかりで、
わざわざこんな物を引っぱり出さなくとも、いつだってそれは
覚悟してましたんで………… 」
「 いや、勘違いするな。そんな事で解決できると思っているのか?
気が付かんか? もう、そんな立場じゃないだろう? 」
「 ど……… どう言う………事……… 」
「 例えば、御両親はまだ健在だろ?
こんな代物を実家に送ったら泣くよね? ん? 」
気が遠くなる。渡辺はようやく、自分が脅迫されている事に気付いた。
「 君の野球人生が哀れでならなかった………
だから今まで黙っててあげたし、アボガド君も廃止したろ?
あの後すぐに地下部屋も撤去し事件を揉み消したんだ。
だが、さっきも言ったように事情が変わってしまったんだ。」
「 僕に……どうしろと………… 」
「 KOTOMI本人に直接渡して欲しいものがあるんだ。
いやなに、ファンレターみたいなもんだ。」
オーナーの手に、封筒が見えた。
そこで渡辺はようやくゴム手に気付く。
「 そ………それを、KOTOMI に? どうやって? 」
「 握手会で渡す。
相手はまだまだ知名度は高くないが、全国区だ。
三流所の御当地アイドルじゃないからな……
郵送など論外だと思わんか?
私の熱い想いが本人まで届かんだろう。」
「 なぜ僕が…… オーナーのファンレターを…… 」
「 絶対に、KOTOMIに開封して欲しいからだ。
つまり、君でなければ相手にされないって事だ。」
「 な……なぜです!? 僕はあの時、野球拳に勝って、その……
最後まで、素顔を晒していない!
一人どのくらい止まってられるか知りませんが、
向こうだって、握手した人全員を覚えていられるわけ……
ああっ! ! !! 」
「 ふふふっ……気づいたか? 察しがイイじゃないか。
そう、君が右手を差し出せば、向こうは嫌でも気づくはず。
そのド派手な傷に! 」
そう言って、大槻は背後のダンボール箱の
中に入っている大量のCDシングルの中の一枚を取り出した。
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