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オジさん…… 俺は、もうオジさん?
嘘だ…… 俺は今までなにをして生きてきたんだ……
今更、転職してまともな仕事につけるのか?
なにが残った?
残ったのは、野球選手を諦めた腹の贅肉だけだ……
子供もいない……そもそも奥さんもいない……いや、それを言うなら……
そう思った瞬間、
アボガド君の中で発作的にグロテクスな悲鳴を上げていた。
それに怯えた子供を宥める夫婦を尻目に、
持ち場の生鮮野菜コーナーから逃げ、真夏の屋外に飛び出した。
息が切れ、動悸が激しい。理由は走ってきたからじゃない。灼熱の太陽が
アボガドのプラスチックを焼いているからでもない。何故か?
噛み付くような視線で、道行く若いカップルを刺す……そう、
渡辺は、今までの人生の中、
只の一度も彼女が居なかった現実に改めて恐怖したのだ。
もはや、手遅れですよと心臓が激しく警鐘を鳴らす。
スポーツを生業にすると言う事はある意味ギャンブルと似る。
金 女 地位 名声 全てをモノにした一人の成功者の陰に
何百人もの敗者がいるという現実を、
夢という甘いオブラートで包んで覆い隠し
野球を職業として続けてしまった渡辺は、
今日まであらゆる事を犠牲にして生きて来た。
物欲、食欲はなんとか誤魔化す事が出来た……が、しかし
性欲だけはいけない。年を重ねるごとにその欲望は
精神的な重荷となり、押し潰される寸前なのにもかかわらず、
その荷を下ろす機会を完全に逸していた。
三十路に突入し、いよいよその重圧は耐え難いものとなっていた。
渡辺は、童貞だった。
ギリギリの生活を維持する中、風俗を経験する金銭的余裕などある筈もなく、
つまり、性処理は自慰のみでおこなって来た。
選手を諦め、激しいトレーニングを止めた最近は特に、
性欲が、噴出口から溢れ出るマグマのように煮え滾っている…… 。
女性の柔肌の感触……その未経験な領域が目の前を通り過ぎてゆく。
露出度の高い夏。白い肌をピタリと彼氏に密着させている……
その感触を想像しただけで、下半身がムズムズと反応した。
渡辺より一回りも若いであろうこのカップルは、
クーラーの効いたどこかの部屋で、
これからたっぷりと時間をかけセックスを……
セックス……? ……セックスって、何だ?
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