episode 0 -Una possibilita-

2/4
前へ
/30ページ
次へ
母親が死んだ。 交通事故だった。俺が7歳の頃、夕飯の材料を買ってくると言った帰りに、交差点で大型トラックに巻き込まれて死んだ。即死だったという。 当時まだ7歳だった俺には、「死」というものがよく理解出来ておらず、何故母親が動かないのか、何故こんなにも身体が冷たいのか分かっていなかった。 葬式が終わり、母親を火葬する時に、俺は初めて泣いた。母親がもうこの世にいないこと、どんなに願っても帰ってこないこと、これからは1人だということを……。 父親は俺がまだ生まれてまもない頃に蒸発したらしい。連絡も取れず、生きているのか死んでいるのかも分からない。当然母親の葬式にも来なかった。兄弟もいない俺は7歳にして1人になった。その後は親戚の家に預かってもらうことになったが、そこでの生活は苦痛で仕方なく、それから6年後の中学2年生の時に家出をした。どこか遠くに逃げ出したかった。 溜め込んだお小遣いで電車を乗り継ぎ、気付けば本州に渡っていた。そこからの記憶はあまりないが、俺は東京に出てた。その頃には殆ど一文無しで、空腹と身寄りがない不安に襲われ、確実に近づいてくる「死」を少しずつ受け入れようとしていた。 後悔をした。今自分が死にそうなのも、親戚の家で地獄のような6年を過ごしたことも、母親を死なせたことも全部あの日自分がたったひとつの我が儘を言ったせいだと。 「カレーが食べたい」 そんなこと言わなければ母親はわざわざ材料をスーパーに買いに行かなくてすんだ。死ななくてよかった。家にあるもので我慢ればよかった。こんなどこの家庭にでもありそうな些細なことで母親は死んだのだ。 戻りたい。今なら正しい選択をすることが出来る。こんな未来を変えることが出来る。誰でもいい。神様仏様頼むから時間を戻してくれ。この6年間ずっとずっと後悔してきたんだ。何か特殊な力でも目覚めろっ!何でもいい。何でもする。だからっ…俺に母さんを返してくれ!! ………願っても何も起きない。そうさ、そんなことはありえない。ここは漫画の世界でもアニメの世界でもない。現実世界だ。俺よりも辛い想いをしてる人はたくさんいるだろう。こんなありふれたような奴にキセキなんか起きない。 人生の終止符が見えてきた。もうすぐ限界だ。 「母さん………もうすぐでそっちに行くからね…………」 ーーーーーーーーー
/30ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加