雪の日

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 それからずっと夢の中にいる。かわいかったあの子が帰ってきた。飛びついてくるその体が氷のように冷たい。その頭を撫でに来るあの人からは冷気が垂れ流されている。家の中が冷蔵庫のように冷やされている。エアコンのリモコンはあの子がなくしてしまった。私が凍えていると、二人は心配そうに腕をさすり、お茶を淹れ、カーディガンを掛けてくれる。ぬくもりに触れたところから、無骨な指先が溶け、あどけない笑顔が崩れてゆく。恐怖した私は結局自分でヤカンを手に取り、カーディガンを着こむ。不思議そうな顔の二人に氷を入れたお茶を出す。  おいしそうにそれを飲む二人。あの人もあの子も、温かいココアがよく似合っていたのに。  何が間違ったんだろう。本物の二人はどこにいるんだろう。外で一体何があったんだろう。もう何万回繰り返した思考で庭に目を向ける。猫が見つめていた。   入れてやろうと近づいた私の足は止まる。焦げ付くような黒い毛並み。若葉のように明るい緑の目。牙を打たれて痙攣するアブラゼミ。 外はもう夏だった。外はもう夏なんだ。それならこの寒さは。愛しい家に満ちる氷のような冷たさは。 夏の影がニャア、ニャア、と笑っていた。
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